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星新一

 一番最初に紹介するのはこの人と決めていた。

 星新一との出会いは小学生の頃。

 図書館のルパンシリーズから児童用ミステリーを読破し、他に読みやすく面白い本はないかと親に聞いた時、親に進められたのが星新一作「ノックの音が」だった。

 

ノックの音が (新潮文庫)

ノックの音が (新潮文庫)

 

 

 この小説は全編「ノックの音がした。」という一文から始まっている。主人公はどこにいて、誰がノックしたのか。泥棒?殺し屋?宇宙人? 

 異なるシチュエーションに、異なるオチ。

 ここから一気に星新一に魅了され、家にある星新一の作品はすべて読み、図書館で借りるようになった。

 それまでは、イラストのない文字だけの本は大人が読むもので子供には難しいと思っていた。絵本や児童文学から、大人が読むような、普通の文庫本への橋渡しをしてくれたのは星新一だった。

 星新一のショート・ショートの中で、特に印象に残っていた話がある。(以下ややネタバレ)

 人間の魂を天国に導く役目の天使が、ルーチンワークに飽きてサボるようになってしまった。そのため神様は、天使を「金髪組」と「赤毛組」に分けて成績の悪い方に罰を下す、といって競わせることにした。

 二組の天使は、最初のうちは普通に話しかけて魂を勧誘していたのだが、それだけだと差がつきにくい。天使たちは、やがて生前にいい匂いのする香水などの特典を与えることで勧誘を始めた。片方よりも、もっといいサービスを……としていくうちに、人間社会は便利の極みになり、人間たちは働かないで、天使の言う通りに魂を生産し続ける、魂工場になりましたとさ……という話だったはず。多少は、うろ覚えの点があるかもしれない。

 星新一のショート・ショートにしては少し長めで、短編小説と言ってもいいかもしれない。

 文明が身を滅ぼす、とかアイロニックな教訓もあるだろうが、幼い私は天使達が次から次へと出してくる便利アイテムが、ドラえもんの秘密道具みたいでワクワクしていた。

 大人になってから、この作品はどの本にあったのだろうと家の本を総ざらいしてみたのだが、ない。図書館で借りて読んだものだったらしい。タイトルのわからない話をノーヒントで探すのは大変だ。と、手当たり次第借りてみてようやく出会ったのだが、その作品は「天国からの道」。

 ショート・ショートにしては長めのせいか、処女作などを集めた「気まぐれスターダスト」に収録されていた。

 

気まぐれスターダスト (ふしぎ文学館)
 

  星新一はショート・ショートという短編小説よりも短い小説の名手であり、平易な文章と予想外の結果に魅了された。1001編ものショート・ショートを書き、百科事典のような厚さの全集まで出版された。これを購入することは私の夢のひとつである。

星新一 ショートショート1001

星新一 ショートショート1001